シロブタ成り上がり列伝 その1
新大久保のパンツ屋編は、
オチのついたところで小休止にして新章突入。
今日から俺のキャリア形成について書きたいと思う。
俺の会社におけるキャリアは薄暗い10坪程度の部屋から始まった。
いま俺が働いているのは本社ビル5階の事務所だが、
入社時は地下ポンプ室横の小部屋に俺を含めた3人の社員と共に働いていた。
仕事の内容は超絶金持ちである創業者の事業パンフレット作成だ。
俺はイラストレーターとウェブの知識があったので運よく採用され、この職を得た。
昼になると、先輩らが机を占領するので、弁当を喰う場所も無く、汚水マンホールの上でメシを喰った。
当時の俺はまだ禿げていなかったし、デブでもなく、結構モテていた。
あのブスというか、横沢とも付き合う前で、もっと可愛いキャバ嬢と懇意にしていたのだ。
来る日も来る日もパンフレットのデザインを作り、時折内線で入る支配人の要求に全て答えて来た。当時の俺のあだ名は「ドラえもん」だった。
あんな夢こんな夢一杯叶えて来たのである。
良いパンフレットが出来ると、創業者は直に褒めてくれた。
その時、決まって言うセリフが「金を掌握する人間が全てを支配する」だった。
俺はその言葉に血肉が湧きたつほどの興奮を覚えたものだった。
それでも俺の評価は中々上がらなかった。
上階にはそれなりに勤続年数のある先輩らがいたので、やつらが権力のほとんどを独占していたからだ。
不遇の数年、、地下で働いていた同僚は次々と辞めて行った。
辞めていくヤツは、必ず会社の愚痴を吐いて辞めて行った。
「シロブタ君もこんな会社にいたら未来もないし、それに僕みたいに禿げるよ」と。
うるせーこのハゲと思ったが、本当に禿げた。
おっぺけぺー!!
俺はめげなかった。
たとえ、1人になろうともこの会社で成り上がってやると決心した。
そう思わせたのは、親友である軍曹の言葉だ。
”いつでも心にロックンロールを持て” と。
そう言ってやつは樽の様な腹にラーメンを流し込んだ。
俺の手持ちスキルとして僅かにあったウェブの知識をもとに、オフィス全体の社内SEとして君臨した。
他は情弱なやつらばかりだったので、圧倒するのにもそれほど時間はかからなかったのだ。オフィスソフト、ネットワーク、時には家のネット回線の相談まで。
俺は把握した。社内のネットワークを。
PCや重要データの入ったファイルサーバーも俺がいなければまともに運用できない。
社内インフラを掌握するのは最も権力に近づく近道だと知った。
なぜならインフラは、社長だろうがヒラだろうが全員が等しく使うモノだからだ。
そこには上も下もない。
例えば便所が壊れてクソが出来なかったら、
いくらシリコンバレーのエリートでも黙ってクソを漏らすしかないだろう?
その便所を直すのは、やつらよりも収入も社会的地位も低い職人達だ。
インフラとはそういうものなんだと学んだ。
知らない知識は事象で勉強した。
何かが起こる、何かを学ぶ、そして次の何かにそれを活かす。この繰り返しだ。
これを機に、俺を地下にいる”タダのハゲ予備軍”と軽んじていた同僚達からの株は、
グングン右肩上がりを続けた。
その時期に横沢と知り合った。思い出したくもないのでこの話はしない。
もう1つ大切にしていたことは、
地下にいても必ず上の仕事を手伝う。顔を売る。俺を忘れるなと。
仕事にこだわりをもたない。何でもやる。
そんなある日、俺の人生を変える出来事が起きた。
偉大な創業者が他界したのである。
つづく